setoです。ここ半年間、上野原の巻狩りグループに属しているおかげで、かつてなく頻繁に狩猟ができています。
といっても、二週間に一回とか、そんなペースですが。
タツに立って無線に耳を傾け、じーーーいっと待ちます。
森の中って、静かなようで、それなりに音が色々するんですよね。
葉っぱや枝がカラカラ、パキパキ落ちるのとか、小鳥が落ち葉の上でカサカサと餌を探す音とか。
耳は便利ですね。キョロキョロしなくても周りの状況(異変)が分かります。
しかしこの間は、無線機のイヤホンをインナー式にしたために、イノシシの足音に気づくのが遅れました。
ヤツは僕のほうに向かってトラバースしてきたのですが、僕は斜面の下のほうばかり見てたのですね。
僕の20メートルくらい手前で「ヤベェ」と思ったのか、方向を45度ほど変えて斜面を登り始めました。
(イノシシの通ってきたコースは雪上の足跡を見れば、後からでも分かります。)
それで、彼が僕の斜め後ろ30mくらいの位置に来たとき、なんでか、僕もフッと気づきました。
白い斜面を、木の根っこのような焦げ茶色の4つ足動物が、ソロリソロリと横切っていきます。
まだ子供です。
銃を構えると、テケテケとスピードを上げ、木立ちの間に入って逃げてゆきます。
バンッと一発矢をかけましたが、ヤツは尾根の反対側へと消えていきました。
それっきり行方知れずです。
こんな体験もあります。
人工林のなか、緩やかな斜面を上方に向かって僕はイノシシを待っていました。
積雪は20㎝くらいでしたが、ゴムの長靴を通して冷たさがキンキンと伝わってきます。
ツルだかサギだかが、水面で片足立ちになる気持ちが分かりました。
彼らは優雅そのものですが、僕ときたら10秒おきに足を交代してはフラフラ、ブルブルと体を震わせながら、まったくミジメそのものの状態でした。
「この寒さから逃れられるなら、一万円払ってでも保温長靴が欲しい。もう勘弁してほしい」と思ってから一時間くらいが経ちました。
さっきから無線機の音が聞こえません。何かの拍子に設定がズレたのですね。
しかし、そんなことに思い至る余裕がまるでありませんでした。
僕は4年前に買った雪山用のゴア手袋を取り出して、かじかみながら着用しました。
ピッケルを持てるように、人差し指と親指が独立した形状をしているため、鉄砲を使うのにも支障がないのです。
実際にその手袋をつけて構える練習をしたことはなかったのですが、まぁなんとかなりそうです。
突如、左上方から、イノシシの子供がナナメに下りてきました。
カサカサカサカサっと歩いては、ハタと止まって周りの気配を探っています。
その動作を規則的に繰り返し、少しずつ僕の真正面のほうへと横切ってくるのを、照準器の先で狙います。
今回は、僕のほうが先に気づいたのですが、なんだか見ていてハラハラします。
なぜ向こうは、上半身をオレンジで固めて自分に銃口を向けている人間に気づかないのでしょう?
イノシシは色が分からないとか本で読んだことがありますが、人間ほど目が良くないのは確かなようです。
(逆に、先日マンマと僕から逃げおおせたイノシシは、人間の耳の悪さにヒヤヒヤしたのでしょうね)
さて、僕はこの時、殺気というか、殺意が全開でした。
これまでの寒い寒い時間と、ついでに空腹が、どす黒い憎しみとなってイノシシに向けられます。
(イノシシにとってはマッタク理不尽な話です。)
普段なら、もっとこう、力の抜けた精神状態で撃つのですが、今回は「絶対当ててやる」、という気迫を込めて、木の間を通るイノシシに狙いを定めます。
バァン!と一発目。イノシシの体がかすかにビクッとしたように見えます。
あわてたイノシシは、どこから攻撃されているのか分からないらしく、加速しながら僕の正面斜面のほうに横切っていきます。
イノシシから鼻先方向を狙って、ドバァンと二発目。当たったという手ごたえがありますが、なおも速度は緩みません。
遠ざかりつつあるイノシシの右後ろから、ドッと3発目。
イノシシはバランスを崩したように右方向に転がり、10m程度下で引っくり返ってもがいています。
こんな場合でも何事もなかったように起き上がって逃げることも有り得ます。
いや、そんな事は滅多にないのかも知れませんが、とにかくその時の僕は殺気の虜でした。
急いで近づいて行って脳天にトドメの一発を撃ちこんでやろうと必死。
気持ちの中では猛ダッシュなのですが、実際は小走り程度の速さですね(笑)。
かじかんだ右手に厚手の手袋をしているせいで、次の弾を取り出そうにもうまく行きません。
口を使ってやっとのこと手袋を引っ剥がし、ポケットから弾を取り出して装填、脳天に狙いを定めます。
その手際の悪さは大したものだったので、イノシシは途中で息絶えるのではないかと思っていたのですが、存外にまだバタバタしています。
イノシシの脳みそってどのあたりにあるのだろうと思いましたが、頭骨の標本を思いだし、目との位置関係から、「ここだろ」というポイントにズゴンと撃ち込みました。
(注:使っている弾は4発とも同じなので、物理的には同じ音がしているはずです。書いているのは気分的なフィルターのかかった音です)
イノシシはほどなくして動かなくなりました。
中古5万円で買った自動銃レミントン1100は、回転不良を起こすことなく、殺しの道具という仕事を全うしてくれました。
後でイノシシの通った道を確認すると、一発目のあたりから僅かに血が滴っていました。
また、イノシシを解体すると、少なくとも2回は上半身に当たっていることが確認されました。
はっきり言って、その撃たれ強さには驚愕です。
まだ子供なのに、有効射程内で上半身を撃たれても、速度を緩めずに走り続けたのですから。
そんな体験をして、散弾銃というものの恐さと、限界が、リアリティを持って感じられるようになりました。
つい先ほどまで元気に駆けていた生き物を、まったく力を使わずに屍にできてしまう装置。
しかしその狙い澄ました一発をまともに喰らっても、20キロくらいしかないイノシシが即倒しなかったという事実。
殺気や憎しみといった世間一般的に大変よろしくないとされる感情が、結果をもたらしてしまったことに対する戸惑い。
今後も狩り部のブログには、狩猟の体験記や、その時の心情を載せていこうと思います。
こういうのって、本や雑誌のような完全オフィシャルな発行物には書きにくいですからね。
あと、僕の獲ったイノシシはグループの皆でバーベキューにして、美味しくいただきました。
ではでは。
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